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 本来であれば12日(水)に外す予定だった額固定ですが、骨の状態の関係上金曜日までずれ込みました。平日の午前中は毎日歯科外来に呼ばれるのでその日も外来へと向かいました。入院患者は待ち時間がなくすぐに診察室へと通されます。外来のベンチに座っている人たちを横目にすたすた歩いていくこの瞬間がたまらなく気持ちいいですね。というか楽しみがそれくらいしかないですね。

 

 診察室で傷口の様子を確認した後、ようやく固定のゴムが外されました。ガチガチに括られていた結束が外され、口を開くよう促されます。が、これがものすごく怖い。もう1週間以上口を開いていないのですっかり開け方を忘れてしまったようでした。そうでなくとも術後初めて開くわけですから本当に怖いです。口を開けます。おぉ、なんだか不思議な感覚。しかし先生は容赦なくもっと大きく開けるよう指示してきます。しかし思ったよりも開きません。先生も開き具合を確認するために手でぐいぐい押し広げてきます。痛くはないですが顎が外れるような恐怖があって全力で抵抗しそうになりました。診察の結果どうやら特に問題はないらしく、食事の時だけゴムを外し、歯を磨いたら今度は自分でゴムを装着して固定する、という流れになりました。それにしても顎が固定されていないのが今度は逆に不安に感じるようになってしまいました。人間って不思議ですね。この時の開口は2cmないくらいでした。これはぎりぎり歯ブラシが入る程度です。

 

 その日の昼からは少しは形のあるものが出てくるようになりました。五分粥です。待ちに待った固形物ですが、口を開けて食べるのが怖い。スプーンが口に入らない。噛むのが怖い。噛み合わせの変化に違和感を覚えないくらい、恐怖の方がまさっていました。それでも固形物を食べる喜びはなかなかのものです。味わう余裕などなかったですが、食事が作業ではなくなってくるのを感じていました。

 

 開口練習もしつつ久しぶりに歯の裏側までガッツリ磨いて、今度は自分で固定のゴムを装着していきました。最初はなかなか難しいですが、慣れてくればささっとかけることができるようになります。おやつも買って食べて大丈夫なので、いよいよ入院がイージーモードになってきました。

 

 入院は暇だと思う人もいるかもしれませんが、私はそうは思いません。もともとインドア派なので自由を制限されていることに不満は感じないんですね。食事が自動的に出てきて、そのほかの時間は好きなだけ本を読めるこの生活は快適ですらありました。それでも、23度のエアコンで冷えた室内にずっといるとたまには外の空気を吸いたくなります。汚い窓から眺める外の風景がひとつの癒しになっていました。少しだけ窓を開けると湿った夏の風が入ってきます。立川の空気を吸うと大学時代を思い出します。4年間でしたが楽しい思い出ばかりです。私の帰る場所は八王子ではなく群馬なんだと思うと外の景色に疎外感を感じなくもないですが、それでも道路を走る車をぼんやり眺めながら、どこからきてどこへ向かうんだろうなと思いを巡らせるのが楽しい。たまに4時くらいに目が覚めた日に眺める景色も素敵です。なんとも贅沢な、入院中しかできない遊びだと思います。ふと耳を澄ますと蝉の声が聞こえてきました。私の知らないところで、季節が移り変わっていたようでした。