2/23(前)

 光陰矢の如しとはよく言ったもので、まだまだ先だろうなんて思っていても必ずその時は訪れるものであり、過去の自分によって先送りされた矢が時を超えて自身にぶっ刺さるみたいなことはよくあることだと思います。例えば半年後だとか一年後だとか、急に言われても到底先のことに実感はわかないものですが、時間が止まらない以上、必ずその時はやってくるわけです。時として時が止まらないのは時に救いであったり、時々残酷であったりする時があるのです。

 

 前回の手術*1から半年経過し、術後の状態も落ち着いてきたということで顎の骨を固定しているプレートを取り外すことになりました。今度の手術は部分麻酔下で行われ、入院も3日程度です。ですから前回よりは気負わずに済みます、とでも言うと思ったか。手術に大も小もないです。麻酔をするほどの処置なんて総じて嫌に決まっているでしょう。半年くらい経ったらプレート除去の手術を行います、というのは退院時にすでに説明されていました。でも全然先でしょ~?とか思ってたんですけどいざその時が来ると、本当に時間って止まらないんだなぁなどと今更ながら実感するものです。おもちゃで遊んだら片付けるように、本を読んだら棚に戻すように、物事には然るべき後片付けというものがついて回るものであり、今回もその例外ではないというわけです。

 

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 朝7時、小さめのキャリーバックを引きずりながら私は新町駅の改札をくぐっていました。冬の関東にしては雲の厚い、どんよりとした朝でした。昨日まで降っていた雨で濡れた地面に、キャリーの跡が尾を引きます。さて、今回のスケジュールはこうです。まず午前10時に入院。昼過ぎになったら鎮静剤を飲んで待機。4時くらいにオペが開始されるそうです。入院からの即日オペは今まで経験がないので必然、足取りは重くなります。しかも部分麻酔ときたもんだ。寝てりゃいいってわけじゃないのがとてもつらい。一体手術中はどのような心持でいればいいのでしょう?ヘルシェイク矢野*2のことを考えて気を紛らわせろとでも…?

 

 立川病院は先日、全面的に新棟に移転しました。引っ越しにぶちあたったのは記憶に新しいですが、新棟で入院手続きをするのは初めてです。まず入院窓口がどこにあるかわからない。案内図をチラ見しつつ意外と入口のすぐそばにあったそこは、以前と違って小奇麗な窓口になっていました。入院窓口では同意書や限度額認定証、診察券などと引き換えに、病棟へ入るためのICカードが手渡されるので、そそくさと受け取って病棟に向かいます。旧棟と違ってそのあたりのセキュリティは強化されているのを実感します。まだ真新しいエレベーターで目的の階まで移動した後、病棟入口の自動ドアの横にかざすと恭しく開きました。さて、ここに来るのは半年ぶりですが懐かしい気持ちになります。前回の入院は非常に大変でしたが、思い出補正がかかっているのでとても感慨深いですね。ただ、この後すぐオペが控えているのであまり感傷に浸る気分にもなれません。その後はナースステーションに挨拶して病室に案内してもらいます。そして今回通されたのは個室でした。これには驚きです。個室入院なんて高校以来のことです。しかも希望なしで通された個室なので差額は発生しないそうです。最高か。こんな幸運に恵まれた以上、頑張るしかないでしょう。

 

 さっそく自分の空間に適当に荷物を広げてジャージに着替えます。入院着を借りて荷物を減らすこともできますが、あんな着るだけで不健康になる悪魔的な衣装は着るべきではいでしょう。そうこうしているうちに昼食が出てきました。病院では基本的に据え膳上げ膳なので多少リッチな気分になります。今回も例によって、常食を食べられるのはこれが最後です。そう、ここから退院するまで粥生活の始まりなのです。

 

 午後3時になりました。簡単な説明の後、用意された鎮静剤を飲みます。意識がぼんやりして不安が緩和される効果があるそうですが、心臓がバクバク早鐘を打っています。効いている様子がないんだが…?よほど緊張していると見える。この身体の重さはあくまで鎮静剤の効果ではなく緊張のせいだと思います。ここまできたらもうどんな抵抗も意味を成さないので一心に瞑想するしかありません。耳に突っ込んだイヤホンからは、例によって草野マサムネの歌声が流れていました。

 

 

*1:とてもおもしろい体験記

miki-5.hatenablog.com

*2:マグマミキサー村田でも可。