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 カーテン越しでもわかるくらいに、少しずつ外が白んできました。夜を超えたようです。痛みも不快感も消えないですが最初の山場は超えたようでした。朝になり、検診を終えると心電図と酸素マスクとパルスオキシメーターが外れます。これだけでも何となくすっきりしたような気もします。次にトイレまでの歩行が可能であれば尿道カテーテルが外れます。が、最初のチャレンジには失敗しました。久々に起きあがったことで貧血になったのかと思われがちですがそうではありませんでした。動いたことで鼻のチューブが喉の思わぬところに当たり、えづいてしまったのです。加えて、ストッキングによる足裏の痣が痛くて歩くどころではありませんでした。実際看護師さんも貧血だと思ったようですが、口が閉じられているのでそんな複雑な事情を説明する気にもなれません。しかも唇を閉じることができないので涎をだらだら垂らしながら歩行訓練をしていました。結局午前中に尿カテが外れることはありませんでした。

 

 今日の午前中は、術後の経過を見るために外来とレントゲンに行く必要があります。当然歩けるわけがないので車椅子で連行されました。顔にサポーターが巻かれ、いろんなところにチューブが刺さり、顎が固定されている患者が車椅子で歯科外来に運ばれてきたのですから、他の患者さんはたいそうびっくりしたと思います。しかしそんなことなど一切気にならず、喉のチューブのポジショニングを調整することで手一杯でした。

 

 午後になりようやく状態や体調が落ち着いてきて、尿カテが外されました。外される時のなんとも言えない嫌な感じはありましたがそれよりも開放感の方が上回っています。残るチューブは3種類。まだまだ戦いは続きます。

 

 ここで第二の試練が待っています。尿カテを外したからには自らの力で放尿するわけですがここが問題となります。外してしばらくは放尿の際に尋常じゃなく痛みます。本当に痛いんです。前回は手術したばかりの歯を噛み締めながら尿を放っていたのでそのトラウマが蘇ります。今回も意を決してトイレに向かいました。

 

 結論から言えば、前回ほどは痛くなかったです。少し拍子抜けするほどでした。耐性ができたのか、上手く挿れてくれたのかはわからないですが、今回は歯を食いしばる必要はないようでした。

 

 尿カテは大嫌いですが、これはこれでなくてはならないものなのだろうと思います。高校生のころに受けた手術では尿カテは挿されず、尿瓶でした。皆さんは尿瓶を使ったことがあるでしょうか。想像してみてください。ベッドの上で寝転がったまま瓶に向けて放尿するのです。これには練習が必要という話も聞いたことがあります。そうなんです、そもそも人間の身体はベッドの上で寝転がったまま尿を放てるようにはできていないのです。理性も止めにかかります。実際私も最初は苦労しました。具体的な手順としてはこうです。尿意を催す→ナースコールを押す→尿瓶をくれと頼む→受け取る→横になりセットする→ここはトイレなので尿を放っても大丈夫だと暗示をかける→瞑想する→やっとひねり出せるといった具合です。その点尿カテは優秀です。膀胱までつながっているので自動で垂れ流してくれます。でもどっちか選べるなら尿瓶を選びますね。その際は事前に布団の上で尿を放つ練習をすると思います。今回は尿の話ばかりですね。

 

 さて、次なる試練が食事です。当然、口から食べることはできません。そのために鼻にチューブが刺さっています。そうです。鼻から注入するのです。サイコパスじみているとは思いませんか。しかも自分でやるのです。自分で自分の胃に流動食を流し込むのです。最初にこれを考えた人は本当にアレだと思います。それでも、点滴から栄養を流すより胃から摂取する方が回復が早いそうです。胃に感覚はないとはいえ、気分が悪くなりそうでした。喉元の感覚は鋭敏なので、喉元のチューブの中をぬるい液体が通っていくのが分かり、それがなんだか無性に気持ち悪いのです。さらに嫌なのは、流動食に味がついていることです。コーヒー味とかバナナ味の流動食を直接胃に放り込むのです。本当に嫌がらせかと思いました。味わいたい、飲みたい…そんな願望をあざ笑うかのように味覚のない胃に飲料を垂らしていきます。食事が完全なる作業です。しかも嫌な作業です。同室の患者の味噌汁の香りを嗅ぎながら味付きの流動食を胃に入れる一日三回のこの儀式が何より苦行でした。