2/23(後)

 4時になりました。通常なら自ら歩いて手術に向かうところですが、今回は鎮静剤を飲んでいるということなので車椅子で連行されました。一般人は入れない通用口などを経由しつつ連れて行かれた先は…手術室。ゑ!?歯科外来でやるんじゃないの!?などと勝手に思っていましたが、本物の手術室です。うまく事態を飲み込めていないながらも、ガーゼ帽子を被せられるなどして一気に現実味が増してきます。緑色の壁や床*1に癒しの効果など微塵もなく、これから始まる凄惨な所業がありありと目に浮かぶようです。この期に及んで駄々をこねるわけにもいかず、嫌々自ら手術台に寝ころぶしかありません。天井からはヒマワリのように爛々と輝く照明が私を照らします。本当にここでやるのか、などと他人事のように思案していました。

 

 ぼんやりしている間にもすごい手際で、心電図をはじめとしたいろんな装置が身体に装着されていきました。その後、顔面を消毒されます。よくわからない液体を大量に塗りたくられました。きっとオペに細菌は大敵なのでしょう。そして覚悟を決める暇もなく、主治医により手術開始が宣告されました。いつだってそうです。覚悟を決めようが決めまいが、時間は刻々と流れるし手術は粛々と始まるのです。ただ、今回に限っては意識がある状態でそれを聞くのがつらい。さて、第一の関門は麻酔の注射です。体感ですが虫歯治療に使われるものよりも針が太い気がします。眠れたらどんなに楽か…と思いつつ耐えます。そしてメスが入ります。まだ麻酔が回り切っていなかったようで、その初撃が尋常じゃなく痛かったです。麻酔の追加もあったのでその後は特に痛みは感じなかったですが、起きている状態で骨をいじられるのが非常に怖いです。口腔内の、しかも耳元でベリベリ鳴るものですからその恐怖たるや…といった感じでした。顔全体に布を被せられているため、今現在何をしているか全く定かでないですが耐えるしかないです。かといって目の前でメスやらを口腔内に突っ込まれるのを直視するのも到底嫌なので、ある種良心的な措置とも言えるかもしれません。時間が長く感じますが、今までいろんな手術を乗り越えてきたじゃないか!と、強く自分を鼓舞します。そのうち終盤に差し掛かってきたようで、耳元で先生が縫合の仕方を実践しながら手下に教えていました。終わった後の悠々自適な入院生活を夢想しつつ、あと少し時間が過ぎるのを待ちます。

 

 長く感じた手術も、無事に終わりました。1時間くらいだったでしょうか。気付くと緊張と不快感で全身に汗をかいていました。よく耐えました。達成感がすごいです。余韻に浸って放心状態の私から、各種装置が取り外されていきます。そして今回除去したプレートを記念に手渡されました。頑張った証として、折に触れて眺めていたいですね。その後は例によって車椅子で個室まで連行されました。すっかり汗だくですが今日は当然シャワーになど入れません。我慢して寝るしかなさそうですが、同室のおっさんのイビキなどに悩まされなくて済む分、恵まれていると考えた方がよさそうです。この後、今回も点滴を刺されました。これに関してはもう慣れっこで、入院の風物詩的なものでしょう。いずれにせよ、正念場は終えたようです。

 

 術後数時間すると麻酔が覚めてきて、痛みが増してきました。心なしか、早くも両頬が腫れてきたような気がします。何となく本を読む気分にもなれずベッドでぼんやりしているうちに、夕食が運ばれてきました。当然、五分粥です。無理して食べなくていいと言われていましたが手術を終えた達成感でハイになっていたこともあり、ぺろりと平らげてしまいました。その夜は処方された痛み止めを飲み、点滴を終えてささっと寝ることにしました。早朝に出かけて手術を堪えぬいた、とても長い一日だったように思います。

 

 

*1:血や内臓などの赤色を長時間見た後でも視界に残像が残らないように、赤色の補色である緑色を使用しているらしい。手術着が白ではなく青なのも同じ理由だとか。