はじめに

 左側唇顎口蓋裂閉鎖手術の瘢痕により上顎骨の成長が劣成長で上顎骨に対して下顎骨が前方に位置する骨格性の下顎前突症、これが私の症状です。歯槽性の問題点としては、上下顎骨に対して歯が大きすぎることによる叢生*1、前歯部の反対咬合、上顎歯列弓幅の狭小。顔貌は側貌において下顎の突出感が認められます。つまり反対咬合と叢生をともなう上顎劣成長による骨格性の下顎前突症ということです。

 

 治療の流れとしては、上下の歯を二本ずつ抜歯しスペースを作ったうえで全体に歯科矯正の装置とワイヤーをセットして歯を動かし始めました。その後、頃合いを見て全身麻酔による外科手術である顎裂部骨移植手術を行いました。口唇口蓋裂の部分に腸骨または顎の骨を移植する手術です。術後は移植した骨の状態を見ながらワイヤーを調節し歯並びを整えていきました。形になってきたので次は噛み合わせを改善するために二度目の外科手術として下顎矢状分割術を行いました。全身麻酔下で口の中に切開を加え、両側の下顎骨を切離分割し、上下の歯が正常に噛み合うよう後方に移動する手術です。その後は歯の角度を調整しながら歯科矯正を進めていき、最終的に装置を外して保定するといった流れになるそうです。工程が多く大変な道のりではありますがそれなりに症例も多く、確立された流れであるようです。

 

 歯科矯正は、通常であれば自由診療になるため、保険適用外で自己負担となります。ですが私の場合、外科手術を必要とする外科矯正なので健康保険が適用されます。また、口唇口蓋裂厚生労働大臣が定める先天異常の疾患に該当するので厚生医療*2保険診療ができます。入院をともなう外科手術の際には限度額適用も同時に使えるため、治療費や入院費が膨大になることはほとんどありませんでした。

 

 先日、職場で休みをもらって2週間の入院で下顎矢状分割術を行い、下顎を下げて噛み合わせを調整しました。物心ついてからの手術としては3回目となります。1度目は高校1年生の時の咽頭弁形成術。幼少のころの口蓋裂の初回手術によって十分な鼻咽腔閉鎖機能*3が獲得されず、言語訓練でも構音機能が改善されなかったために行われました。のどの後ろ側の壁を少し剥がして、咽頭弁と呼ばれる弁を鼻の奥と喉の間に作ることにより鼻から口への空気の通り道を狭め、鼻咽腔閉鎖機能を補助することを目的とする手術です。発音時に鼻から呼気が抜ける症状の改善を見込んでいます。2度目は大学4年生の時の顎裂部骨移植手術。稀に移植骨が定着せず再手術になる症例もあるそうですが、私の場合は1回の手術で定着しました。3度目となる今回が下顎矢状分割術です。今までの手術の中では最も大がかりで、重い内容でした。人生の中でもそれなりに大きなイベントだったので、備忘録としてここに今回の顛末を書いていきます。そんなに酷で凄惨な内容では決してないですが、痛い話が苦手な人は少し注意してください。私は痛い話が苦手なので読みません。

 

*1:叢生(そうせい)…顎のスペースが足りない、もしくは歯が大きいために、歯が重なって生えている状態。反対咬合をはじめとした不正咬合を伴うことがよくある。

*2:厚生医療…身体障害者手帳の交付を受けた18歳以上の人のなかで、その障害を除去・軽減する手術等の治療の実施により確実に効果が期待できる者に適用され、1割負担で治療を受けることができる制度。

*3:咽腔閉鎖機能…軟口蓋が動くことによって口と鼻の間に壁を作る機能。言葉を話す時には、この機能によって言葉が鼻に抜けないようになり、正しい発音で言葉を話すことができる。また、飲食時にもこの機能によって、口の中の物を飲み込む際、食べ物が鼻のほうに漏れないようになる。つまり、咽腔閉鎖機能が不完全だと言葉が鼻から抜けるうえに飲んだ牛乳が鼻から出る。